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いま世界中が注目しているのは、米国の住宅バブル崩壊に始まる欧米のサブプライム危機である。 今回の金融問題だが、名財務長官と言われたロバート・ルービン氏からジョージ・ソロス氏のような著名な投資家にいたるまで、口を揃えて「今回の危機は戦後最悪の金融危機だ」と強い言葉で警告を発しているが、彼らの危機感は海外の金融市場を見れば歴然としている。
実際、20O7年の秋から欧米の金融市場が機能不全に陥り、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)を始め、ECB(欧州中央銀行)、スイス中銀、イギリス中銀など、各国の中央銀行が次々と新しいスキームをつくって資金投入を続けているのが現状である。 こうしたなかで現在まともに機能している金融市場は、世界で東京だけである。
したがって、日本にいる我々は特別何も感じていないし金融危機を実感してもいない。 世界的に見ると、いま大変なことが起きているのである。
金融市場が機能していないとはどういうことなのか。 その現象面から見ていくことにしたいが、その前に金融の基本的な仕組みについて説明しておこう。
我々一般市民や企業は銀行にお金を預けたり引き出したりしている。 銀行が経済全体の決済システムを担っているからである。
例えば、我々が生活費を下ろしたりローンを借りたりすることによって、毎日すさまじい額のお金が銀行から出ていく。 逆に、預金やローンの返済などによって、巨額の資金が銀行に流れ込む。
そうした我々の行動に基づく資金の出入りに対して銀行はまったくの受け身である。 それゆえ、場合によっては、出ていくお金が少なくて入ってくるお金が多いこともあれば、その逆のケースもある。

そうした資金の流入・流出が毎日行われているのが金融の世界である。 出ていくお金が多くて入ってくるお金が少ない銀行は、資金不足になる。
銀行のシステム全体で考えれば、それとは反対に、入ってくるお金が多くて出ていくお金が少ない資金余剰の銀行が必ずある。 そこで銀行同士が資金を融通し合えばすべての決済はスムーズに行われる。
その役割を果たしているのが金融の中心に位置する「インターバンク市場」と言われるものである。 すなわち、インターバンク市場は、資金がダブついている銀行から資金不足の銀行へお金を供給する橋渡し役を務めている。
それによって金融全体がうまく回っているのである。 いま欧米では、その決済システムの中心であるべきインターバンク市場が機能不全に陥り、決済ができなくなる可能性が出ているのである。
資本主義社会のか血液である資金の流れが滞ってしまったら、経済は大混乱に陥ってしまう。 いま起きようとしているのである。
なぜ、そんな事態が発生したかというと、余剰資金を持った銀行がそれを抱え込んで、市場に回さなくなってしまったからである。 なぜ回さなくなってしまったかと言うと、インターバンク市場の参加者である銀行が、お互いに相手を信用しなくなってしまったからである。
お互いに相手を信用できない、という疑心暗鬼の状態は「カウンターパーティー・リスク」と呼ばれている。 カウンターパーティーというのは「取引相手」という意味であるが、取引相手に対するリスクをみんなが取りたくないから、市場がどんどん縮小してしまうのである。
銀行同士、お互いに信用しなくなったのは言うまでもなく、相手がいつ潰れるかわからないからである。 最近の例を挙げれば、20O8年3月に米証券大手のベアー・スターンズはたった2日間で破綻してしまった。
同社が破綻した週末の2日前の木曜日の朝に、同社は8O億ドルの資金があると思っていた。 その日の夜までに6O億ドルが逃げ出し、週末にはたったの20億ドルしか残っていなかったのである。

ベアー・スターンズのようなことがあると、資金の出し手は融通した資金が戻ってこない可能性があるので、なかなか資金を出さなくなってしまうのである。 ベアー・スターンズの時は破綻寸前になって当局が介入して大事になるのを防いだが、当局のあのような行動がとられていなかったら、大変なことになっていた可能性があるのである。
ベアー・スターンズのような大手金融機関がわずか2日で破綻する事態が発生すると、多くの金融機関はやはり現時点で資金をインターバンク市場に出すのは得策ではないと考える。 その結果、現状では資金の借り手がいつ倒産するかわからないので、インターバンク市場の金利が通常よりずっと高く設定されるようになり、市場が通常の機能を果たせなくなってしまったのである。
彼らがお金を出さないと経済の血流が止まってしまう。 それを回避しようと、各国の中央銀行は必死になって資金投入を続けているわけである。
中央銀行が資金供給者として出てくれば、資金不足になっている銀行は中央銀行から直接借りることによって決済をすることができるようになる。 そこで去年の秋ごろから、FRBも、ストップさせまいとずっと資金供給を続けているわけである。
直近(O8年5月)まで、中央銀行がずっと資金供給を続けているということは、実はこの問題がずっと続いていることの証しに他ならない。 各国の中央銀行が毎週のように新しい資金供給策を発表しているのは、ただただ決済システムが壊れないようにしているということなのである。

こんな事態に立ち至ったのはまさに前代未開である。 それにしても、なぜ欧米の金融界はこれほどまでにひどい状態になってしまったのか。
この背景には、後述するようにサブプライム問題から始まった多くの金融商品の価格暴落で各行にすさまじい損失が発生していることに加え、お互いに相手がどのくらい損失を抱えているかわからないという不安心理がある。 「サブプライム問題は戦後最悪の金融危機だけの額を投入していただければわれわれの問題は解決します」と説明していたとしたら、2度目の投入というのは当初の予測が甘かったことを認めることになる。
そうなると、2度目の資本投入を受けても、「本当にこれで充分なのか。 実はまだまだ大きな損失を隠しているのではないか」という市場の疑心暗鬼をかきたてることにもなるのである。
実際、シティバンクに続いてサブプライム関連への関与が大きかったUBS(スイスに本拠を構える金融グループ)は昨年12月、シンガポールとアラブのSWFから資本投入を受けることを発表したが、シティバンクの場合は11%、UBSの場合も9%の利払い条件が付いている。 両行とも、サブプライムの住宅購入者より高い金利を払っているのである。
シティバンクやUBSといった超一流ブランドがこのような高い金利を払ってようやく資本調達ができるいかに今回の事態が深刻かということの証しである。 それは同時に、その他の銀行にとって、現時点での資本調達がいかに難しいかということを意味している。
逆に言えば、金融機関関係者はみなそのことに気付いているからこそ、欧米のインターバンク市場がなかなか正常化しないのである。 中央銀行の資金投入はあくまで金融市場の機能不全を防ぐためところで、中央銀行の資金投入はインフレを引き起こす要因にならないだろうかという不安を洩らす人がけっこういる。
今回の資金投入は短期金融市場が機能不全に陥るのを防ぐためのものであるから、その心配はない。

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